8215 もしかするとここにいたかもしれない

駅から勤務先へと向かう途中、少し道を変えて足を伸ばした場所に、やや年季の入った古いビルが佇んでいる。ここは、記憶の引き出しの中にだけ残っている、ちょっとした思い出の場所だ。
記憶が確かならば、就職活動の折に面接か何かの手続きで訪れたことがある。
率直に言って、どうしても入社したいと熱望していた企業ではなかった。
しかし、就職活動の先行きが本当に見通せるのかどうか、不安に苛まれていた時期だったこともあり、少しでも選考が進むこと自体が純粋に嬉しかった記憶がある。
振り返れば、当時はかなりの数の企業に応募したものの、最終面接まで進んだのは、結果的に30年以上勤め続けることになる現在の会社を含めて、わずか2社だけだった。
結果として、このビルの企業には縁がなかったわけだが、もし何かの拍子にこちらへ就職することになっていたら、その後の歩みは大きく変わっていただろう。
もちろん、人生の選択に正解も不正解もない。ただ、現在と比べてより険しい道のりを歩んでいた可能性は、決して否定できない。
日々の生活にはそれなりに骨の折れることもあるが、現状は十分に恵まれた環境にあると言える。
その一方で、まったく異なる人生もまた、すぐ地続きの場所に存在していたのかもしれないと思うと、奇妙な感慨が湧き上がってくる。