闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜/藤原 良

■社会・政治・事件,龍的図書館

「貧困が犯罪を生む母であるとすれば、知性の欠如はその父である」

ジャン・ド・ラ・ブリュイエールのこの言葉から始まる本書を読み進めると、その意味をいやというほど思い知らされることになる。

本書は、いわゆる「闇バイト」のような犯罪がどういった経緯で生まれ、現在に繋がっているのかを丁寧に解説した一冊だ。

Windows95の発売によってインターネットが普及し始めた1995年から、わずか5年後の2000年ごろには、すでにクレジットカードのスキミングや架空請求メールが横行していたという。

これらを実行する「サクラ」が出現し、足がつかないための「飛ばしケータイ」が使われ始める。驚くのは、当時は就職難だったこともあり、こうしたサクラの実行役を、なんと「正規社員」として募集できていたという事実だ。

その後、手口はフィッシングメールや還付金詐欺、オレオレ詐欺へと「進化」し、2004年にはこれらを総じて「振り込め詐欺」と命名されるに至る。

興味深いのは、こうしたネット系犯罪は、当初は暴力団とはつながりの薄いところで広がったという点だ。

取り締まる法律や規制の隙を突く形で、いわゆる「半グレ」が進出してくる。しかし、地縁や上下関係で結ばれた半グレは芋づる式に摘発されるリスクがあった。

そこで、闇サイト殺人事件のように「面識のない者同士」がネットを通じて結びつく土壌ができあがり、テレグラムなどの秘匿性の高いツールの登場によって、SNSで募集される「闇バイト」のような、緩やかで流動的な犯罪集団が産声を上げた。

これに対し、2023年7月、警視庁はこうした集団を「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と定義することになる。

本書の中でもっとも印象に残ったのは、闇バイトの実行役として狙われるターゲットについての記述だ。

「バカって、言われたことしかやらないでしょ。(中略)他のことができないとか、考えないとか、そういう感覚の奴。要するに言いなりですよ。それで給料もらえるならラッキーぐらいにしか思わない奴。こっちとしてはそういう奴のほうが便利なんですよ」(p.112)

社会経験が乏しく、政治や法律に関心がない。働く気はあるが、来月の給料日まで待てず、今日中に金が必要な人間が「合格」なのだという。

これは以前読んだ『ケーキの切れない非行少年たち』でも触れられていたが、いわゆる「境界知能」に分類される層が明確に狙われている。

本書は、彼らに知識を与えて啓蒙するだけでなく、社会的・福祉的なサポートが必要であると指摘する。

こうした人々は、これまで社会から顧みられてこなかったのかもしれない。

しかし社会構造の変化によって、彼らが「加害者でありながら、同時に被害者のような側面を持つ」という現実が白日のもとに晒された。

これは単に犯罪を主導する者だけの問題ではない。もっと根の深い、社会の「闇」そのものと向き合う必要性を強く感じた一冊だった。

Posted by ろん