7523 展覧会「五感で味わう日本の美術」
三井記念美術館で開催中の展覧会「五感で味わう日本の美術」を鑑賞。
本展の展示では、人間が持つ五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に“気持ち”を加えた、6つの章で構成され、そうした感覚を活用して、さまざまな絵画や工芸品をしていく。
第1章「味を想像してみる」では、まさに目の前の作品そのものの“味”を想像してみる。
高瀬好山《伊勢海老自在置物》、安藤緑山《染象牙果菜置物》は、いずれも、よくできた“超絶技巧”作品だ。
第2章「温度を感じてみる」では、絵の雰囲気から”温度”や”空気”を感じ取ってみようという章。
たとえば、川端玉章《京都名所十二月(六月)》のように、よく見ると全体的に“もわっとした感じ”で、夏の湿度の高い雰囲気がよくあらわれていることがわかる。
第3章「香りを嗅いでみる」は、いくつか香りを感じる作品はあったが、もっとも気になったのが「蘭奢待」だった。
切り取られたわずかな部分とはいえ、本物を見たのは初めてだ。
蘭奢待は東大寺の正倉院に平安時代に伝来したとされる香木で、あの織田信長も魅了して切り取ったのは有名な話。
これは、前田家の家臣の家に伝わったものらしい。
第4章「触った感触を想像してみる」で、気になったのは、本阿弥光悦《黒楽茶碗 銘雨雲》。
千利休の指導のもとで茶の湯のためだけに使われたこの茶碗は、ろくろを使わず手指だけで作られたという。手に取ると驚くほど馴染むのだそう。
レプリカでいいので、その触り心地を試してみたかった。
第5章「音を聴いてみる」では、ふたたび、高瀬好山《昆虫自在置物》で、リアルな虫たちが紹介されていた。
虫の鳴き声を、ここでは“音”として取り上げたのだろう。
そういう点では、鳴かないトンボやカマキリ、チョウなどもいたけど、それはまぁいいとしよう…。
そして、ここでもっとも気になったのが、 次の《勝絵絵巻》だ。
15世紀の室町時代に描かれたもので、なんと放屁の威力を競い合う「勝絵」という戦いを描いている。屁の勢い、表情など、ツッコミどころ満載だ。いったいどんな音を想像したら良いのか。
第3章に分類しなかったのは、「臭い」であっての「香り」ではないからだろう。
それにしても、これはもう屁という名前の化学兵器だ。
第6章「気持ちを想像してみる」で紹介されていた、山口素絢《鬼図》。
解説にもあったが、飛び出るほどの目が印象的で、どう見ても異常なほど驚いているようすがわかる。
トゲトゲしたヒイラギの葉に、においの強いイワシの頭を刺した「焼嗅」がある。
これに驚いているのだ。効果抜群であることがわかる。
作品そのものから、どういったことを感じとることができるか?…古美術や歴史、謂れなど、事前知識がなくても、楽しめるように工夫されてていた感じだった。
子供たちにとっても、とっつきやすい内容になっていそうではある。
一方で、こうした五感というものは、想像力だけでも限界があるなぁ…とも思った。
たとえば、伊勢海老を見て”味”を思い起こせるだろうか…やはりちゃんと食べてないと難しいだろう。
ある程度の経験がないと、類推にも限界があろうというものだ。
そういった意味でも、経験の大事さというものをあらためて感じた。