永寿総合病院看護部が書いた 新型コロナウイルス感染症アウトブレイクの記録/髙野ひろみ ほか

■社会・政治・事件,龍的図書館

東京都台東区にある「永寿総合病院」という名前を聞いたのは、全国で初めての新型コロナウイルス感染症の大規模な院内感染が起きたからだ。

感染者数、病院職員83人、患者109人。

1日の感染者数が30人弱の日が続く最近の東京都の状況と比べると、その数の多さにあらためて驚く。

当時、実際にどのようなことが起きていたのか?

その現場の最前線にいた看護師の皆さんによる記録だ。

9つの章に分かれて、それぞれ冒頭に見開きで漫画があって、その後にそれぞれの解説が続く。

“野戦病院”といった状況で筆舌尽くし難い状況だったはずだが、漫画を始め、本文中にもちょっとゆるめのイラストが多用されているせいか、読みやすい。

新型コロナウイルスの感染が始まった当初、病院スタッフたちは、多少の違和感を覚えながらも、いったい何が起きていたのか…ということを理解しきれず、結果的に感染が広がっていったことが赤裸々に語られている。

そして、患者やスタッフにも感染者が広がり、さらに濃厚接触者に認定されてしまう人が続出したため、病棟スタッフ全員が出勤停止になるという事態となり、深刻な人手不足に陥っていく。

さらには、病院を支えてきた業者が撤退してしまったことで、職員や看護師たちの負荷が激増してしまう。

これまで想像したこともない、あり得ない事態が起きてしまうわけだが、そこに患者がいる限り、看護は続くわけで、どうやったら乗り切れるか、さまざまな知恵を出していく様子が紹介されている。

決して投げ出さず、患者に寄り添って難局を乗り切る姿には、感動を覚える。

当然ながら感染対策も手探りだし、いまとなっては過剰とも思える対策も行われていたが、まだ未知のウイルスだった当時では致し方なかっただろう。

いくら深刻な状況であっても、わずかでも改善する方法というものがあるのだということがわかる。

興味深いのは、看護スタッフばかりでなく、患者のほうも徐々に感染対策のレベルアップが見られたということだった。

また、日本初の大規模なアウトブレイク事例ということもあったせいか、マスコミ対策や、風評被害の対応などが、苦労に拍車を掛けていたことも書かれている。

いずれも、不安からくるものだということはわかるが、それを少しでも軽減させることが、病院の負担軽減につながり、病院を利用する人たちにとっても大きなメリットがあることを知るべきだろう。

当時、マスコミをはじめ部外者は、かなり無責任なことを言っていたが、本書に書かれてるような実際に起きていたことを知ったら、どう思うだろうか?

第6波が来るかもしれないといういま、病院関係者やそれを伝えるマスコミなど、当時の経験を活かすために、本書を読んでほしいと思った。

Posted by ろん