5674 ある後輩のこと
入社直後、彼は、僕によく懐いてくれて、いろいろと声を掛けてくれた。
スマートフォンが登場する以前の“電子手帳”全盛時代。僕の勧めた通り機種を買って、使い方や活用の仕方を一緒に考えたりした。現在と違って、当時はマニアックなものだったから、いろいろと情報共有したものだ。
また、彼が一人暮らしを始めるのにどこかいいところはないかと尋ねられ、「こんなところはどう?」と紹介したら、そのアドバイスにしたがって、そこ住み始めたりしていた。
ある飲み会の席で、どういった話の流れか忘れてしまったが「一緒に富士山に登りましょう!」という話になり、その後も「ぜひ」と誘ってくれていた。
しかし、当時の僕はそれを本気だと思ってなくて、ずいぶん経ってから、ほかの同僚や友人と登ったというのを聞いた。
このあたりから、彼とはどんどん疎遠となってしまった気がする。部署も離れたところへ異動となったことも影響していると思う。
その後は、個人的な会話はなくなり、社内で見掛けたときは「おつかれさま」と声を交わす程度の関係となった。
そして、今日、業務でやり取りしているメールのなかで「退職した」という名前のなかに、彼の名前を見つけた。
人と人とのつながりというのは、タイミングとか、微妙なバランスとか、偶然などにも影響されてるんだな…と、なんとなく思う。
いろいろな条件が重なって現在に至っているわけで、何か正しいとか間違っているということはない。
けれど、まったく言葉を交わすことなく、そのまま会社を去られてしまったのは、やっぱり、一抹の寂しさみたいなものは感じずにはいられなかった。
いまも、電子手帳の設定で交換した彼の誕生日だけが、データの移行を経て僕の iPhoneのカレンダーにコピーされたままになっている。