JRは生き残れるのか/梅原 淳

■鉄道,龍的図書館

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JRは生き残れるのか
梅原 淳
洋泉社 2018-05-10

by G-Tools , 2018/07/16

 

著者の名前は、最近、ネットの鉄道関連の記事ネットの鉄道関連の記事でよく目にするようになった。

銀行勤務の経験があるせいか、数値を用いた比較的論理的な説明が多いのは好感が持てるのだけど、提言が真の解決結びつくのか疑問に感じるところが少なくない。

自分の鉄道知識を披露したいがあまり、誤った主張をしてるとしか思えない記事もあり、穿った目で見てしまった。

本書の内容としては、JR各社の抱える諸問題を挙げ、30年後の未来を予測する…というものだが、なかでも、最も強調している内容は、現在のJR各社の再分割や再合併についてだ。

たとえば、JR北海道は、札幌近郊、道北、道東、道南4社に分社化、JR東日本は東北とそれ以外を分社化…といった感じで、全国のJRは、それぞれ分社化すると予想している。

しかし、こうした分割によって、諸問題が解決に向かう気がしない。

東北地方と北海道を合併する“弱者連合”みたいな方法の意味が理解できなかった。

また、鉄道以外での事業に活路を見出すべきとあるが、これでは解決になっていない。

企業として収益を上げることは当然だが、そもそも「誰も利用しない鉄道」をどうするのか?ということについての解が明確に示されていないのは残念だ。

国有化や上下分離は非現実的と主張する一方で、国や地方自治体の支援(出資)が不可欠というのは矛盾している。

すでに「鉄道を維持する」かどうかという段階は過ぎ、道路も含めた交通体系を維持するにはどううしたらいいか?という検討に舵を切る時期に来ているのかもしれない。

「普通列車はすべて廃止して特急列車のみにすべき…」といった、一考に値する提言もあって、議論を呼び起こすきっかけとしてはいいとは思うのだが、あまりしっくりくる提案はなかった。

それよりも、自分の鉄道知識を披露したいという記述が目についてしまって、気になった。

たとえば、新幹線が使用する電圧は交流2万5000ボルトといわれているが、これは“建前”で実際には3万ボルトという記述(p.193)とか、建設中のリニア中央新幹線の愛称に「“富士”がふさわしいとJR東海の関係者と雑談の際に推薦した」という記述とか…。

交流電圧に本音も建前もあるのか?とか、雑談レベルで推薦も何もないだろう。

また、予想が早くも外れてしまう例もあった。

JR東日本は羽田空港アクセス線の建設を断念すると予想しているが、建設に向けて動き出したというのは先日記事にしたばかりだ。

豊富な鉄道知識があるのは間違いないし、視点も面白いのだけど、ついツッコミを入れてしまいたくなるのは、この問題の抱える難しさからくるのかもしれない。

Posted by ろん