新鉄客商売 本気になって何が悪い/唐池 恒二
JR九州の社長を務め、現在は会長の著者。オヤジギャグが散りばめられた軽妙な語り口で、気軽に読めるが、内容は、しっかりとした「ビジネス書」だ。
鉄道会社なのに、韓国釜山と福岡を結ぶ船舶事業、東京や大阪、海外にも進出している外食事業、ホテル、マンション、農業…ドラッグストアチェーンの買収などで周囲を驚かせ、売上高に占める日鉄道事業は鉄道事業を軽く超えている。
鉄道事業でも、「ゆふいんの森」「あそBOY」をはじめとするD&S(デザイン&ストーリー)列車や、日本初のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」などの運行など、話題に事欠かない。
そして、無理と思われた、株式上場を果たしたJR九州は、ほかのJR各社と比べると、明らかに変わっている。
こうしたJR九州を象徴する事業の中心には、いつも著者がいた。
本書ではその裏話や思いが熱く語られている。
そんなJR九州を率いてきた著者が、本書の中でたびたび語っているのが、「気」と「夢を見る」ということの大切さだ。
「気」に満ち溢れた店はなからず繁盛する…とは、言われてみれば当然なのだけど、意外とこうした当然が難しい。
著者はその難しさを知っているから、しつこいくらいに、その大切さを周囲に説いているのだろう。
著者の実績は、民営化直後に社長の指示で丸井に修行に出ていた経験、JR九州でさまざまなデザインを手掛けている水戸岡鋭治をはじめとするさまざまな人との出会い、そしてなにより、九州という地域のポテンシャルなどにも恵まれたような気がする。
偶然といえば偶然も多いが、こうした偶然を活かせるかどうかも、重要な能力だとは思う。
ただ、ふと思ったのは、彼がここまで実力を発揮できたのは「九州」だったから?ということだった。
もし、資金も人も潤沢なJR東日本だったら、ここまでの活躍ができただろうか?とか、逆に、すべてが切羽詰った状況になっているJR北海道だったら、どこまで活躍できたのだろう?…とか、ちょっと意地悪な想像もしてしまったが、能力のある人は、きっとどんなところでも力を発揮するのだろう…と思うと同時に、九州以外での活躍も見てみたい気がしてきた。
実は、この本を読んだのは、もう2か月ほど前になる。
その後、JR九州の来年3月に大幅減便するダイヤ改正の発表で、地元自治体と対立するというニュースがあった。
大成功を収めてきた話を読んだ直後だけに、ちょっと残念な思いもしつつ、これからが本当の正念場を迎えているのだとも思った。