東京β/速水 健朗
ずっと埼玉で過ごし、社会人となったいまは東京で暮らし東京で仕事をしている。
小さなころから身近ではあった東京が、実は、世界最大級の都市であり、世界的に見ても独特な存在である…と知ったのは、それほど以前ではない。
建築や都市計画などに興味が出て、こうした本を率先して手にするまでは、まったく知らなかった。
本書は、映画、ドラマ、小説、漫画などに登場した東京を取り上げ、描かれた時代を振り返り「東京」の変化をたどっていく。
いまから30年前の1986年(昭和61年)放送された「男女7人夏物語」。
舞台は、隅田川にかかる清洲橋周辺。このドラマを、隅田川沿いをニューヨークに見立てた恋愛ドラマだという視点は、興味深かった。
当時、この周辺は、再開発が進んだ最先端の地域だった。
主人公の一人は良介の住むマンション清洲橋の西側中央区日本橋中州。
そして、橋の向かいに住む桃子のアパートは、江東区清澄一丁目だ。
ここをニューヨークのイ-ストリバーに見立てて、貧しい街からミュージカルの中心地であるブロードウェイへ、橋を渡る主人公の階層上昇を描いた、映画「サタデーナイトフィーバー」と重ねたのだ。
川を隔てて、ブランド品に囲まれたマンションと、畳とふすまのアパートで、街のステータスの違いを表現していたという。
「太陽にほえろ」と「踊る大捜査線」
どちらも大人気となった刑事ドラマであるが、それ以外で、ぱっと共通点
を思い出しにくいが、実は重要な部分で共通しているところがあった。。
まず「副都心」を舞台に描かれた刑事ドラマという点。
太陽にほえろの、オープニングのタイトルバックとして描かれたのが京王プラザホテルだった。
京王プラザホテルは、1971年に淀橋浄水場跡地に、新宿初の超高層ビルとしてオープン。
太陽にほえろの放送開始は1972年で、住友三角ビルの建設現場が舞台になるなど、舞台は、当時開発が始まったばかりの副都心だった。
一方、踊る大捜査線の、第1話で、主人公の青島がたばこの吸い殻を投げ捨てるシーンは、太陽にほえろのオマージュであり、放送開始の1997年は、フジテレビがお台場に移転した年だった。
ドラマに映し出された臨海副都心の風景は、周辺に何もないことがわかる。
新宿副都心にしても、臨海副都心にしても、言うまでもなく大きく変化を遂げていて、あらためて振り返ってみると、その変化に驚く。
東京は、いたるところで工事が行われていて、変化することが当たり前のような感じがしているが、実はこれはすごいことなのだ。
ときどき、少し距離を置いて、客観的に「東京」振り返ってみると、いろいろな発見があって、とてもおもしろい。