下流老人/藤田孝典
今、日本で大量に「下流老人」が生まれているという。
本書で定義する下流老人とは「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れのある高齢者」のことだ。
下流老人の多くは、「収入が著しく少ない」「十分な蓄えがない」「頼れる人間がいない」の3つのない点が共通しているという。
下流老人を含めた生活困窮者支援を行うNPO法人の活動に携わってきた著者の経験を踏まえて、いま日本で増加しているという、下流老人の実態に迫っている。
これまで、普通の生活をしてきた人たちが、いとも簡単に下流老人に陥ってしまう…という事例を紹介。
親の介護や娘の病気など、想定外のできごとに対応しきれずに、下流老人に陥ったというのはわかるのだけど、最後に紹介されていた、大企業の社員も例外ではない…という事例は、ちょっと「?」と思った。
この例では、貯蓄と退職金で3000万円を持っていた人が、下流老人に至り、ついには生活保護を受けることになった…という。
なぜ?…という思いながら読んだら…
「(天涯孤独だから)せめて自分の墓を用意しようと思っていたところに、営業にきた会社に墓石やら永代使用料やらに900万円支払った」という。(p.61)
さらに追い打ちを掛けるように、心筋梗塞に見舞われ、2度の手術、高額医療費助成制度も知らず、貯蓄は消えてしまい、さらに年金も支払ってこなかったため、生活は破綻し、生活保護を受けるに至ったという。
果たして、事例としてこれは適切なのだろうか? 自分の墓を用意するだけで資産の3分の1を失ってしまう…というのが、一般的なことだろうか?
下流老人たちの口から異口同音に聞かれるのが…
「自分がこんな状態になるなんて思いもしなかった」
ということだったという。
たしかに親の看病や介護のために仕事を辞めざるを得なかったというのは、思いもしないことではあると思う。
「こんなに年金が少ないとは思わなかった」
これはおかしい。最初から少ないってわかってるはずだ。
下流老人の問題を改善するには、これまでの自身の考えや価値観を変える必要がある。
本書では、この問題を、本人の努力や自己責任にする世論に警鐘を鳴らし、法制度や医療などの不備も指摘しているものの、具体的な対策については、結局のところ、”自己防衛”という形で紹介している。
まずは現在の制度をしっかりと周知して活用し、本書でも触れられているが、下流老人予備軍となうる、若年貧困層に対する手当を早急に行うことが大事だと思う。
「下流老人」という言葉にかなりインパクトがあって、現在の高齢者に向けた言葉のような気がしてしまうが、これは実は、現在の問題よりも、若年層に向けた言葉のような気がしてならない。