ネアンデルタール人は私たちと交配した/スヴァンテ ペーボ
ネアンデルタール人…と聞いて、ヒト…つまり、ホモ・サピエンスの祖先なんだろうなぁ…くらいに思っている人は、けっして少なくないはずだ。
僕もそのひとりだった。
しかし、ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンス共通の祖先から分岐しているので、直接の祖先ではないのだ。
そして、ホモ・サピエンスより先にアフリカを出て、現在のヨーロッパや中東付近で、20万年〜30万年にもわたって暮らしていたという。
その後、ホモ・サピエンスも、アフリカを出て、現在のように全地球に棲息範囲を広げていったが、ネアンデルタール人は、絶滅してしまう。
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは、種類が違うのだ。
そんな種類が違う生物同士が、交配した…。
それを証明したのが、この本の著者スヴァンテ ペーボだ。
彼は最初から、ネアンデルタール人を調べようとしたわけではなく、古代エジプトへの興味から、ミイラのDNA、そしてネアンデルタール人のDNAを調べるに至った。
古い人骨のDNAを調べるということは、極めて困難な作業のようだ。
どうしても、現代人のDNAが混入してしまうらしい。
現在人のDNAが混入してしまうと、ネアンデルタール人のDNAと区別が付かなくなってしまう。
研究は、こうした混入や"汚染"との戦いである。
たとえば、こんな話が出ていた。
ナマケモノの骨を調べているときに、ニスを塗っているのではないかと学芸員に尋ねると、なんとその骨をなめたのだ。
ニスを塗布されていたら唾液は染み込まないが、塗布されていなかったら、骨が唾液を吸収するので、舌がはり付くような感じになる(p.92)。
同じ「研究者」であっても、骨に対する考え方や接し方がまったく異なるエピソードだ。
その後、長年の試行錯誤を経て、ついに、約4万年前のネアンデルタール人のDNAの増幅に成功した。
そこから読みとれた衝撃の事実が、このネアンデルタール人とホモ・サピエンスが交配していたということだった。
日本人を含むアフリカ人以外のホモ・サピエンのすべてに、ネアンデルタール人のDNAが数パーセント共有されていたのだ。
アフリカ人以外の…というのが興味深い。先述の通り、ネアンデルタール人は、ホモサピエンスより早くアフリカを出て行ったので、アフリカ人には、ネアンデルタール人のDNAを持たないのだ。
そして、ヨーロッパや中東で交配した我々の祖先が、世界中に散っていった…ということなのだ。
他にもさまざまな話が満載で、とてもここで紹介しきれない。
協力しあっていた研究者がライバルとなり、貴重なネアンデルタール人の骨を奪い合う事態となったり、著者が自分がバイセクシャルであることや、知人の妻を奪ったみたいな話も出てきて、ちょっとした"ぶっちゃけトーク"も入っていておもしろい。
ボリュームがあって、ちょっと難しいところもあるが、テンポのいい話の展開で、意外と読めた感じだった。