鉄道と刑法のはなし/和田 俊憲

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鉄道と刑法のはなし (NHK出版新書 420)
和田 俊憲
NHK出版 2013-11-07
by G-Tools , 2014/02/22

鉄道と刑法という切り口は、斬新に見える。

本書のはじめにに書かれていたが、実はとても相性がいいのだそうだ。

明治維新以降、我が国に鉄道網が張り巡らされていく時期と、近代国家として刑法が整備されていく時期はほぼ同じで、鉄道刑法は、現在に至るまで独立した刑法として定められているのが興味深い。

鉄道と刑法の切っても切れないさまざまなエピソードが、紹介されている。

興味深い話をいくつか紹介すると…

ときは、1926年(大正15年)6月19日。福岡県を走っていた鞍手軌道。

被告人は列車を妨害しようと、駅に停車中の列車を確認し、この列車が踏切を通過することを見越して、踏切に石を置いた。

しかし、この路線は単線で、被告人の見た列車は、実はすでに踏切を通過した後だったという。そして、その後やってきた別の列車が、置いた石と衝突してしまう。

被告人に対して、往来危険罪に問われた。

被告側からは「当初目的とした列車には、なんら危険を与えていない。したがって往来危険罪の成立を認めるのは違法」と主張したという。

なんという詭弁!?…と思ったが、これは「衝突させたこと」のみに対して罪を問われたために、こうした主張になったようだ。

その後、この裁判は現在の最高裁判所にあたる大審院で審議され、昭和2年4月12日の判決では、「危険を認識し、線路に石を置いた時点」で往来危険罪は成立するとした。

もちろん、現在は一般的な考え方ではあるが、こうした積み重ねが、現在の法律を支えているのだ。

ただ、狙ったものとは別のものに結果や危険が発生する場合を「打撃の錯誤」といって、故意犯の成立を認めるかどうか学説上の争いがあるそうだ。

キセル乗車に関する話も興味深い。

最近は、自動改札機が普及し、キセル乗車は、詐欺罪ではなく、電子計算機使用詐欺罪に当たるかどうかが論点になっているという。

被告は、こんなキセル乗車をした。

往路は、乗車駅(上野駅)で最低運賃の乗車券を購入して入場。下車駅(宇都宮駅)では自動改札機のない岡本駅からの回数券で出場する。

復路は乗車駅(宇都宮駅)で最低運賃の乗車券で入場し、下車駅(渋谷駅)では、往路で購入した上野駅からの乗車券で精算するというやりかただった。

この事件での争点は、下車時に使用した回数券や乗車券の磁気記録が電子計算機使用詐欺罪の成立に必要な「虚偽の電磁的記録」に当たるかどうかということだった。

つまり、通常の手続きにより購入されただけで偽造改変されていない乗車券などを「虚偽」のものといってよいかどうか?

たしかに虚偽でないけど…

2012年(平成24年)6月25日の判決では、入場記録がないこと自体が、虚偽の電磁的記録という判断だった。

なるほど!

他にも、興味深い話がたくさん載っていて、楽しく読むことができた。

さまざまな経験の積み重ねの上で成り立っているという意味では、刑法も鉄道もまったく同じということで、たしかに著者の言うとおり、相性のいい組み合わせだということがよくわかった。

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