3957 八ッ場ダム

建築・都市

吾妻渓谷の遊歩道を歩いたあと、川原湯温泉駅に向かって歩いていると、八ッ場(やんば)ダムの看板があった。

この場所は、ダムが完成するとコンクリートの塊のちょうど真下になるようだ。

ダムの周囲では関連する工事が着々と進んでいるが、この付近では、ダム本体の工事はそれほど進捗しているように見えなかった。

それだけに、ここにこんなにも巨大なダムができるのかと、ちょっと不思議に思った。

川原湯温泉駅に戻ってきた。駅のすぐ上の遙か彼方を橋が横切っている。

駅には、このあたりに、食事をする店がないという貼り紙があった。

 

「今しか見られない景色がある」
「ダムに沈む幻の温泉」

 

川原湯温泉のポスターが、ちょっと悲しい雰囲気を漂わせていた。

出発まで時間があったので、川原湯温泉の温泉街にあたる場所近くまで行ってみることにした。

しばらく歩いて行くと、温泉街入口の門が見えてきた。

その門の遙か上空に、ダムが完成した際の横断橋が作られていた。ダムの両岸を通る付け替え道路を連絡するための橋「湖面1号橋」だ。

これほど高いということは、それだけ水面が高く、今いる場所が、深い深い湖底であるということになる。

看板を参考に、満水時の水位を写真に描き加えてみた。

理屈ではわかっても、いまひとつ実感が湧かない。

とにかく、人の気配がほとんどない。

温泉街に向かう橋も、老朽化が進んでいるようだが、ダムに沈むことが決定しているためか、補修されずにいるようだ。

途中で、嘉納治五郎の別荘跡と書かれた看板を見つけた。

どんなところだろう?と見に行ったが、本当に“跡”らしく、まったく何にもなかった。

温泉街付近まで来たが、ひっそりとしていた。

よく見れば、取り壊された建物の土台があちこちにあったり、営業を終了したお店や、露天風呂などもある。

この街が姿を消しつつある…と実感。

かなり移転が進んでいるのだろう。

駅で「食事できるところはない」と書かれていたように、お店もまったくなく、ずっと行った先にあるであろう旅館と、川原湯温泉駅以外で、一般の人が利用できる施設は、この郵便局くらいしかなさそうだ。

ここまで街がこんな状態になってしまっては、中途半端に工事が中断するより、遂行してもらった方がいいかもしれない…という気もしてくる。

観光地によくある出口付近の「ありがとうございました」が、今日ほど、見送られる寂しさを実感することはない気がした。

ふたたび、川原湯温泉駅に戻って、列車を待つ。

プラットホームから、湖面1号橋がよく見えた。

遠くから鉄橋を渡る列車の音と、警笛が聞こえた。

湖面1号橋をくぐって、特急草津がやって来た。

列車に乗ってすぐ、右側の車窓に真新しいコンクリート製の高架橋が見えてきた。

窓を開ける。乗車した185系特急電車は、いまどき珍しく窓が開くので、写真が撮りやすい。

吾妻線の付け替え線路だ。

1時間1~2本しか通らない路線にしては、(失礼ながら)“不釣り合い”なほど、しっかりした作りのコンクリート橋に見える。

レールも既に敷かれていた。

八ッ場ダムの完成予定は、2019年度とのこと。

次に来るときには、このあたり一帯はどんな景色になっているのだろう。

Posted by ろん