科学技術報道史/御代川貴久夫
東京電機大学出版局 (2012-03-23)
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高校時代、一度は理系を目指したことがある身としては、「科学」は、趣味の鉄道や建築などと同じくらい、僕にとって気になる分野だ。
そういうこともあり、科学に関する報道が、どのように伝えられるかということについても、当然、気になる。
科学に関連するニュースは、原因や仕組みや背景などが複雑であることが多いために、どうしても伝える側が補足説明を加えることになる。
この説明によって、伝えられる側の印象は大きく変わる。
本書では…
公害(足尾鉱毒、水俣病)
薬害(サリドマイド事件)
原子力
リスクに関する事象(オゾン層、ダイオキシン、環境ホルモン、遺伝子組み換え食品)
…といった実例を用いて、科学報道がどのように行われ、どういった問題があるかを指摘していく。
正しいことを伝えるのは当然としても、それが「はっきりしないこと」の場合の判断は非常に難しい。
報道が事故の拡大を防ぐ役割を果たす場合もあるが、どうしてもミスリードするケースの方が目立ってしまう。
たしかに、「可能性」だけで報道すれば世論を混乱させるかもしれないし、逆に、報道しなければ被害は拡大するかもしれない。
落としどころはどこだろう?
そもそも、「正しい知識」が世論に共有されれば問題解決か?というと、そうでもないと思っている。
なぜなら、正しい知識に基づく解釈は人それぞれだから…だ。まったく同じ情報であってもその解釈は人それぞれであり、その結果行動も異なる。
たとえばあるリスクがあったとする。
リスクというものは、ある閾値を超えたら被害が出て、それ以下だったら被害が出ないなんてことはない。
変化は緩やかに現れる。
同じ情報があっても、どこまでを安全として、どこからを危険と捉えるか? この判断は結局は個人に委ねられるべきことなのだ。
同じ無視できるレベルのリスクでも、ある人は許容しても、ある人は認めない…とか。
そういった意味からも、報道する側からの情報を鵜呑みにするべきではない。
報道する側の責任があるのも当然だが、それを見聞きする側も気をつけるべきだ。
アンケートや統計などと同じように、そもそも、このデータが本当に正しいのか? 正しくても人間に適用すべき問題なのか?
自らの都合の良いように利用するために、嘘はつかないが、本当のことは言わない(NTNF=Not False Not Truth現象)の存在を忘れずにいることが大事だろう。
本書とちょっと離れてしまったが、とてもわかりやすく、理解しやすかった。