3846 タネも仕掛けもある
先日、銀座に行ったときのこと。
歩行者天国では、歩行者ばかりでなく、いろいろな人たちが繰り出してくる。
「あ…」
その中心には、いつか見たあの光景があった。
そのピエロは、すぐ後ろに座っている男の命令に従って、まるで生きているかのように自在に動き回っている。
今を振り返ること、二十数年前。
どこだったか忘れてしまったが、まったく同じ光景が目の前に繰り広げられていた。
直接触れていないのに、なぜ動く?
気になって仕方がなかった。それは、一緒に見ていた父も同じだったらしく、なんと、買ってしまったのだ。
1,000円!
高い…けれど、まるで意思を持ったように動く人形を手に入れることができたのだから、安いものだ。
父も僕もワクワクした。
しかし…。
1000円と引き替えに受け取ったビニール袋には、ピエロと、小さな説明書が入っていた。
「えっ…動く…ってこれでは…」
仕組みは理解した。
でも、なぜか気持ちはスッキリとしなかったし、あのワクワクは綺麗さっぱりとなくなってしまい、残ったのは、動くことのないピエロと、悔しさだけだった。
当初の目的を達成したにもかかわらず、とても悔しかったのは、ピエロの動く仕組みがあまりに単純だったからだ。
落ち着いていれば、買う前に、仕組みを見抜くことができたはずなのに、あのワクワク感は、自分の目を曇らせたのだ。
そして、二十数年経った今…また目の前に、あのときと同じ光景が広がっている。
人だかり、ピエロ、すぐ後ろに座っている男…
そして、買ったあのとき気付かなかった、もうひとりの仲間の男。
先日、じっと見ていたら、その仲間の男が、おもむろに1,000円札を取り出し、ごく自然な…手慣れた雰囲気で買っていたのだった。
当然、仲間なので、彼は買ったあともその場を離れない。 そこまでやるか…。
踊るピエロを見るたび、複雑な気分になってしまう。