ごはんぐるり/西 加奈子
以前、この本の著者の小説を読んだことがあったので、彼女の名前は知っていた。
大阪育ちということで、なるほど、本書でも、あめちゃんやお好み焼き、関西弁など、あちこちで、コテコテの大阪が顔を覗かせる、食べ物への愛情を感じるエッセー集。
食べ物に愛情がある…けど、美食家か…というとけっしてそうではない。
著者は、旅に出ると悪食(あくじき)になって、普段食べないアメリカンドッグやポテトチップスをむさぼり食ってしまう。旅先に着く前にそれをやってしまって、肝心の名物料理が食べられなくなるというのだ。
汁気を吸ってべろべろに伸びたり、だらしなくなった麺が好き。味が染みすぎて、もはや元の食べ物が何だったかわからなくなるくらいがいいらしい。
ちょっと…えっ…と思うが、食べ物に対する、ありがちな「あるべき論」がまったくなくて、食べものに、正直に向かい合ってる感じがした。
それは、親の仕事の都合でエジプト・カイロにいたということで、食べ物に対する感覚が研ぎ澄まされたせいかな? 異国の料理にもほとんど抵抗がなさそう。
振り返って、自分自身のことを考えてみると…いまはだいぶ変わってきたが、以前は、食べ物に対しては、まったく無頓着というか、関心が薄かった。
食べ物は、僕の優先順位としてはかなり下位だったから、有名な観光地に行っても、名物には目もくれず、食事をコンビニ弁当で済ませてしまう…なんてことを平気でしていた。
いま思えば、もったいないことをしたと思う。
読んでいて、あぁ…羨ましい…と思ったところが…
生ハムのやわらかな食感を、からすみの舌にまとわりつくうまみを、燻製にしたつぶ貝の鼻をくすぐる香りを、分かるようになったのは、いつからだろう。
(中略)
そして、やっぱり、お酒を飲めるようになってからじゃないの、という結論に行き着いた。(p.139)
やはり、食というジャンルにおいては、「酒」の占める割合は非常に大きい。お酒をほとんど飲むことのできない僕の立場からすると、とても損をした気分になってくる。
巻末の書き下ろしの小説は、ある小説家が、喉の病気で入院し自由に食べることができなくなるという点で、これまた“食べ物”にちなんでいる。話の展開が、僕にも心当たりがあって、親近感も湧き、なかなかおもしろかった。