マウンドに散った天才投手/松永 多佳倫
僕にしてはちょっと珍しいジャンルの本を手に取った。
輝かしいデビューを飾るものの、その直後に、怪我や病気などで、ほとんど活躍できず、期待された結果を残せなかったプロ野球選手、伊藤智仁、近藤真市、上原晃、石井弘寿、森田幸一、田村勤、森田幸妃の7人を取り上げている。
プロ野球のことを詳しく知らない僕でも、読みやすく、一気に読んでしまった。
言うまでもなく、プロ野球人生では、怪我はつきものだ。
リハビリをして再起を図ろうとするも、自分の意思だけではどうしようもないことの連続なのだということは、全員に共通していた。
そして気になったのは、よく言われる、首脳陣やフロントとの関係だ。
天才投手と呼ばれた伊藤智仁。 当時の彼のコーチは、不完全な状態で投げさせたファームでも試合を、一生忘れられないと悔やむ。
一緒にやっているコーチに聞かないで球団側は伊藤に、投げられる姿を見せられなかったら、来年契約はしないという言い方をした。選手にしたら断ることはできない。(p.46)
江夏二世と呼ばれた、近藤真市。首脳陣は、同じ地でキャンプをしていたドジャース相手にどんどん投げさせた。
だが、来る日も来る日も打たれまくる。当然だった。この年、ドジャースはワールドシリーズを制覇したのだ。(中略)3Aでもバカスカ打たれ、近藤は自信を喪失する。そんな状態のまま開幕を迎え、案の定3連敗。(p.67)
中日・星野監督の、近藤真市、与田剛、森田幸一と若くてイキのいいピッチャーを一年目から頻繁に使い、潰してしまうという無茶な起用法がファンの間で物議を醸す。いわゆる酷使だ。この本の企画をするにあたって人選するときも、候補に中日出身のピッチャーが多く出てきた。それも星野監督時代に起用されたピッチャーばかりだ。(p.93)
ただ、選手達が、こうして指摘に対してどう思っているかというと、けっして否定的ではないのだ。
酷使なんかではなく、むしろ、投げるチャンスを与えてくれて、嬉しくて仕方がなかった…と。多少痛くても、投げられる喜びには敵わない…と。
出口の見えないリハビリを続けるモチベーションや、同期や後輩達が活躍する様子を見て忸怩たる思いなど、当事者たちの生の声は、とても重く響いてきた。
相当不本意な形でマウンドを去った選手達ではあるが、当時の野球に掛ける思いはけっして色褪せていないと思った。