コロンブスの玉子屋/菅原 勇継
文春ネスコ
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都内を歩いていると「玉子屋」と書かれた車をときどき見かける。
玉子を売っているのではなく、企業や工場向けの仕出し弁当を提供している会社の車だ。
その存在は、以前から知っていたが、日替わりとはいえメニューは1種類、430円というそれほど安いというわけではない価格…と、それほどすごいと思えなかったが、読んでみると、実は相当すごい会社だったということがわかる。
あらかじめ契約した事業所だけとはいえ、当日朝9時から10時までに電話かFAXでのみ受け付けている。
その数、実に7万食。
たった1時間の間にすべての受注を取って、その日のお昼12時に間に合わせるのだ。
当然、受け付けてから作り始めるのでは間に合わないので、その日に注文がくる数を想定して、早朝から作り始めている。
足りなければクレームになるし、作り過ぎればもったいない。
しかし、ロス率はなんと0.1%未満。つまり数十個しかないという。一般的には3%程度というから脅威的な低さだ。
それを支えているのは、必要数を見積もるノウハウと、配達するルート、余ったり足りなかったりした弁当を融通しあう仕組みだ。
たまに路上に止まっている玉子屋の車は、そんなことをしていたようだ。
気になる原価率は、53%。下げようと思えば下げられるが、お客さんのことを考えれば、これ以上切り詰めることは考えていないらしい。
おかずと付け合わせが、毎日7、8種類。1ヶ月間で同じ主菜が登場することがない。2週間前までのメニューしか出せないのは、ギリギリまでより良い食材を探しているからという。
どこまでも顧客志向のこの会社の大きな転機は、食中毒事件を起こしたときだった。
それをきっかけに、できるだけ人の手を介さないで調理できるよう徹底的な機械化を進めたことで、衛生的になったのと同時に、大量の注文も受けることが可能になったのだ。
何がきっかけに変わるかわからい、ピンチがチャンス…という好例だ。
本書の著者は玉子屋の社長(現在は会長)だ。とてもユニークな方のようでマスコミにも登場しているらしい。
本書の中で、印象的だったキーワードを挙げると…
- 「社会や他人の役に立つ仕事をしているという満足感」
- 「頑張れば報酬が増えるという実力主義」
- 「大幅な権限移譲」
- 「平等ではなく公平な評価」
“玉子屋の企業理念”として、玉子屋のサイトには、こんなことが紹介されているので引用する。
事業に失敗するこつ
- 旧来の方法が一番良いと信じていること。
- もちはもち屋だとうぬぼれていること。
- 暇がないといって本を読まぬこと。
- どうにかなると考えていること。
- 稼ぐに追いつく貧乏なしとむやみやたらと骨を折ること。
- 良いものはだまっていても売れると安心していること。
- 高い給料は出せないと云って人を安く使うこと。
- 支払は延ばす方が得だとなるべく支払わぬ工夫をすること。
- 機械は高いといって人を使うこと。
- お客はわがまま過ぎると考えること。
- 商売人は人情は禁物だと考えること。
- そんなことは出来ないと改善せぬこと。
ある意味、かなり基本的というか、当たり前というか、“ベタ”な内容も多かったが、それゆえに、いろいろ“気づき”になることがたくさん書かれていた。