レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史/原 武史

レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史
原 武史
新潮社
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レッドアローとは、かつて走っていた西武鉄道を代表する5000系特急電車だ。

そして、スターハウスは、旧日本住宅公団が建設した、団地のシンボル的に建設した住宅棟だ。どんな建物か?ということについては、先日紹介したとおりである。

本書は、それらの解説本…ではなく、西武鉄道(=レッドアロー)沿線に広がった、大規模団地(=スターハウス)を舞台にした戦後思想史だ。

日本に大規模な団地が誕生し始めた当時、華やかで羨望の眼差しで見られた団地生活だが、実際に住んでみると、実は電話がない、保育所がない…といった問題に直面することになる。

公団はあくまで、団地というパッケージを用意しただけであった。それらの問題は、住民自身が解決するしかなかった。団地住民に革新的な政治意識が芽生えるゆえんである。(p.174)

なるほど、山積する問題に自分たちで解決しようと思えば、“組織化”することは自然の流れだったわけだ。

親米反ソ(反共産主義)を貫いたという西武グループの創始者堤康次郎が作り上げた西武沿線が、皮肉にも共産党の有力な支持基盤となっていくさまは、これまた興味深い。

西武線沿線に次々と誕生した大規模団地は、アメリカの風景とは似ても似つかず、むしろ当時のソ連の風景そのものだったのだ。

西武池袋線沿線のひばりが丘団地で自治会の役員を務めていたことがある不破哲三氏は、その後共産党委員長を勤めている。

また本書冒頭にあった、西武鉄道沿線に作られていたハンセン病患者の隔離施設や結核療養所と大規模な団地が似ている…という指摘は、なんとなくわかるような気がした。

周辺の農村とはまったく異なる共同体が生まれ、戦後政治思想史の伏流水を形成したという意味では、似たような歴史が二度繰り返された

世間と隔絶された療養所での生活と、まったく新しく作られた団地での生活は、見知らぬ者同士がまったくと言っていいほど同じ環境で過ごすという状況に置かれているわけだから、当然の結果なのかもしれない。

また堤康次郎を天皇になぞられた“西武天皇制”とも言えるエピソード…

のちの、すかいらーくとなる、ことぶき食品が、ひばりが丘で開業するが、西友ストアーと競合したことで、食品スーパーに見切りをつけ、ロードサイドの外食産業へ転換を図る話…

狭山事件やロングブリー事件など、地域に暗い影を落とす事件…

などなど、読み進めていくと、あちこちに興味が湧いてくる話が次々と出てきて、正直ちょっと難しい話も多かった一方で、読み応えのある本だった。

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