3628 アベさん
ふだんお昼は、会社の外に食べに行くのだけれど、今日は珍しくラーメンを食べに行こうということになった。
特に理由はないけど、これまで会社のお昼でラーメンという選択肢は、僕にとっては皆無に等しい。
当然ながら、今日行ったところも、初めてのお店だった。
入口で食券を買う。
味は、醤油、味噌、塩の3種類から選べ、チャーシューの枚数によって値段が変わっていた。
僕はふつうに、醤油ラーメンを頼んだ。
お店の人に食券を渡すと、麺の硬さを聞かれたので、とりあえず「ふつう」と答えた。
すると、奥の厨房にいる店員に・・・
ん?アベさん?
まぁ、なにかを頼むときには、相手の名前を呼ぶのは別におかしいことではない。
別に何の問題もない。
けれど、店はとでも小さく、店員は2人だ。
それに、一般的に、こうしたラーメン屋で、他の店員に対して〇〇さんと呼ぶのは、ちょっと意外な感じがしたのは、偏った見方だろうか?
奥の厨房にいる店員をよく見ると、呼びかけている40歳台の店員よりも若い感じがした。
呼びかけている店員は、どういう人物か?
・新入り
・礼儀正しい
・会社員歴が長く、つい
アベさんはどういう人物だろう?
・このラーメン屋の店主
・礼儀には厳しい
・肩書きで呼ばれるのを拒んでいる
そんなことを考えているうちに、次の注文が入っていた。
ラーメンの上に載る野菜(といっても、もやしだけど)の量も指定できたようで、あとからやってきたお客さんが、
「野菜多めでお願いします」
…と言うと、店員が…
「本当に多すぎて、どんぶりがひっくり返ってしまうくらいなので、ふつうでも、野菜はじゅうぶん多いですよ」
…と、親切かどうか微妙なアドバイス。
だったら、野菜多めという選択肢はいらないんじゃないだろうか?と思った。
「アベさん、麺硬め、塩でお願いします!」
厨房のアベさんは、黙って麺を茹で始めた。