新解さんの謎/赤瀬川 原平
新解さんの謎 (文春文庫)
赤瀬川 原平
文藝春秋
ふつう国語辞典というのは、その言葉の持つ一般的な意味を淡々と教えてくれるものだと思っていたが、新明解国語辞典(三省堂)は、ちょっと違うようだ。
もうずいぶん前のけっこう有名な本らしかったが、僕は初めて読んだこの本は、その、新明解国語辞典に登場する言葉の解説や例文のなかから、特徴的というかかなり個性的なものを取り上げ、“新解さん”として、ツッコミを入れている。
たとえば…
かえん 【火炎】「ほのお」の意の漢語的表現。「-放射器」 [表記]「火(焔)」とも書く。【-瓶】ガラス瓶にガソリン(石油)を入れ、投げつけると発火するようにしたもの。[かぞえ方]一本
注目は、かぞえ方。 そんな日常で使うことのない、かぞえ方を取り上げる必要があるのだろうか? 瓶なのだから、わざわざ個別に取り上げることもないと思うし、この説明も…
こくぞく【国賊】 体制に対する叛乱を企てたり 国家の大方針と反対したりする、いけない奴。(体制側から言う語)
はまぐり【蛤】[浜栗の意]遠浅の海にすむ二枚貝の一種。食べる貝として、最も普通で、おいしい。
どこか砕けた感じで、著者の主観が入り込んでいる気がする。
主観が入り込んでいると言えば、これらもすごい。
じっ しゃかい【実社会】実際の社会。[美化・様式化されたものとは違って、複雑で、虚偽と欺瞞とが充満し、毎日が試練の連続であると言える、きびしい社会を指す]
どうぶつ【動物】 (…前省略…) 【-園】生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえてきた多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀なくし、飼い殺しにする、人間中心の施設。
何も、そこまで言い切らなくても…。
例文も、妙なものが多い…
すなわち (…前省略…) ほかならぬ、その年月日 その場所 その人である、ということを表す。「米国商業飛翔の最初の結節点になったのが、一九二九年、-大恐慌の年だった・玄関わきで草をむしっていたのが-西郷隆盛であった」
て かげん【手加減】 物の取扱い方のこつ。 「味のつけ方に-が要る・女学校は初めてなので真-が分からない」
ぼさっ と(副)-する しなければならない事を忘れていたり仲間からひとり取り残されたりして、締まらないことを表す。「駅から花屋に出る四つ角には交番があるのだが、管内の出来事には鈍感な警官が-立っているだけであった」
本書は、全体的に、どうも下ネタっぽいので、お勧めする相手を間違えると、気まずい感じになりそうだけど、辞書を読むおもしろさを教えてくれる。
…のだけれど、この本の後半は、なぜが辞書とはまったく関係の無いエッセー集となっている。これはこれでおもしろかったのだけど、もっと新解さんを知りたかった自分としては、物足りなさを覚えた。