3550 席を譲る側からのささやかなお願い
帰りの電車の中でのこと。
空席がなく、数人程度が吊り革(吊り手)につかまっている程度の乗車率。
僕はドア付近に立っていた。
途中の駅から、老夫婦が乗ってきた。おじいさんは、腰を痛めているようで杖をつきながら歩いていた。
おばあさんは、比較的足取りが軽い感じだった。
おじいさんの方は見るからに、電車に立って乗るのは大変そうだったので、車内に乗り込んだ2人の様子を目で追ってしまった。
すると、すぐに座席に座っていた中年男性と女性がそれぞれ席を立ち、老夫婦に席を譲ったのだ。
老夫婦は、何度もお礼を言い席に座った。
席を譲ってもらったことが、よほど嬉しかったのか、老夫婦の隣に座っていた女性に、
「席を譲ってもらって、今日はほんとにいい一日でした~」
と話しかけ、夫婦の間でも、
「最近はいい人が増えていいですね~」
と、席を譲ってくれた人を褒めちぎっていた。
少し離れた僕のところまで会話が聞こえるくらいだから、けっこうな大きさでしゃべっていたようだ。
これ…。
席を譲った人の表情までは追えなかったが、もし自分が、席を譲った側だったら、落ち着いていられないと思う。
恥ずかしくいたたまれなくなって、車両を移動するか、降りる駅でもないのに降りてしまいそうだ。
もちろん、嬉しかったことを相手に伝えることは大事だし、これほどまでに言えば、十分よく分かるのだけれど、できることなら、お礼の気持ちは個人的に、そっと伝えるだけにしてもらえると、ありがたい。
これは、席を譲る側からのささやかなお願いだ。