女子大生マイの特許ファイル/稲森 謙太郎

■科学,龍的図書館

女子大生マイの特許ファイル
稲森 謙太郎

楽工社

 

なにかすごい製品やサービスを思いつくと、ふと「特許」という言葉が頭を過ぎる。

また、GoogleやAppleの法廷闘争もよくニュースで見聞きするし、先日、サトウ食品と越後製菓の切り餅に関する特許についての判決も記憶に新しい。

サトウ食品が、2012年4月期の業績予想で、「切り餅」訴訟の損失見込み額計上‎し、最終利益を下方修正したというニュースを見掛けた。

特許は、会社の業績をも左右する。

そんな特許は、言葉はよく知られているが、その中身については、案外よく分からないもののように思う。

この本は、女子大生のマイという主人公が、特許事務所でのアルバイトを通じて、特許について学んでいくという、ストーリー形式になっている。

そもそも特許って?ということから、特許として認められる要件、出願や侵害に関することや、孫正義、菅直人、所ジョージといった有名人による発明(ドクター中松も…)、話題となった青色LEDの発明など特許にまつわるさまざまなエピソードが紹介されている。

特許として認められなかったものは、見ていておもしろい。

例としてあげられていたのは…

  • 埋蔵金を発掘する方法
  • 株価を永久に上昇し続ける方法
  • 恐竜を絶滅させた隕石がどこに落ちたか
わざわざ申請の費用を掛けてまで、こんな特許を取得しようとする人の気持ちが、よくわからない…。

特許は、特許電子図書館で、インターネットにアクセスできる人なら誰でも閲覧できるので、以前読んだ、Google Earthでの見どころを紹介している本のような楽しさがある。

一番おもしろかったのは、申請の本文が、なぜか小説風になっている特許だ(申請内容のPDFはこちら)。

特開2000-197669『身体障害者専用自動車3台の新案及びその理念』

身体障害者向けの車やバイクに関する特許。

【特許請求の範囲】
【請求項1】目の不自由な方でも運転出来る自動車仮名グレートアイ。
【請求項2】下半身の不自由な方や老人が新型特殊電動車椅子を使って運転席に着き、運転出来る自動車仮名スーパーシニアキャリア。
【請求項3】下半身の不自由な方や老人の使う電動車椅子が持ち主の命令でミニバイクに完全変形する仮名ミニバイクルマイス。
【請求項4】上記の発明はいずれも持ち主の声紋を記憶し、持ち主の命令に従って自動的にドアを開閉したり、ミニバイクルマイスの場合では変形する。

この特許について、こんなふうに説明している。ちょっと長くなるが、そのまま引用すると…

販売店の店長と買いに来た客とのやりとり。

店長「お気に召されましたか?」
ユタカ氏「乗せて下さい!」
話はとんとんびょうしに進み、いよいよ試乗する事になった。
店長「それではこの指向性マイクに声紋を入力して下さい。」
ユタカ氏「私はユタカ!」
女の声「声紋入力出来ました。いつでもお乗りになれます。どうぞよろしく。」
ユタカ氏は店員たちにミニバイクルマイスに座らせてもらった。
ユタカ氏「チ…チェーンジ、ミニバイクモード!」
女の声「声紋確認しました。変形致しますのでしばらくお持ち下さい。」
上を向いていたハンドルが水平に降下した。車椅子の前輪を軸にして左右の両輪が展開し前後の車輪となった。小さな前輪は補助車輪となり、転倒しないようバランスを保った。
女の声「シートが回転します。ご注意下さい。」
ハンドルのある方を前にシートが回った。ユタカ氏はうれし涙を流して喜んだ。ユタカ氏「私は私は…、この時が来るのをどれ程待ち望んだ事か…!」
店長「このミニバイクモードなら時速30キロまでスピードが出ます。いかがでしょうか?」
ユタカ氏は二つ返事でミニバイクルマイスを買い、古い電動車椅子は下取りに出された。こうしてユタカ氏の願いは叶い、さっきまでの不満は一気に消し飛び、彼はミニバイクルマイス・ミニバイクモードで帰って行った。

特許の申請に「完」…って。

Posted by ろん