D列車でいこう /阿川 大樹
D列車でいこう (徳間文庫) 阿川 大樹 徳間書店 2010-07-02 |
とある、廃止が決まっているローカル線で事故が起きる。
そこに偶然居合わせた銀行マンと、中央官庁を退官した鉄道マニアの2人は、この事故がきっかけで、この赤字ローカル線が気になって仕方がなくなる。
年間の赤字額3000万円なら、なんとかなるかもしれない…と、銀行マンの部下のMBAを持つ才媛を加え、3人で、このローカル線の再建に乗り出す…というお話。
多少ネタバレになるので、もし読んでみようと思う方がいらっしゃったら、以降の記事にはご注意を。
再建のために、さまざまなアイディアが登場する。
現実のローカル線で行ったアイディアもあって、この本が先なのか、それとももしかしてこの本が参考になったのかな?と思わせるような話も。
また、昨今の話題や傾向が、巧みに取り込まれていて、広告宣伝などにはインターネットが多用され、鉄道マニアの考えそうなこともうまく“利用”して、再建の糧にする。
みんな苦労しながらも、「なんとか再建したい!」という思いが、彼らを突き動かし、困難を乗り越える力になっていた。
みんな、大変な仕事だとは思っていないのだ。むしろ楽しんでいる。
こういう“楽しい”仕事というのもあるのかもしれないな…と、フィクションのなかの人物たちに、軽い嫉妬を覚えるくらい、誰もが楽しそうだった。
もちろん、地元との軋轢や、抵抗などもあったが、この物語では、ほとんど伏線というものが“ない”ので、さらりと読むことができた。
とんとん拍子に話が進んでいくので、読んでいて、楽しくなってくる。まるで、おとぎ話かファンタジーを読んでいるような。
ただ…
もうちょっとヒネリというか、どんでん返しというか、緊迫する場面があってもよかったんじゃないかなぁ…と思ってしまった。
それに、物語を成立させるための前提が、あまりにも出来過ぎているのが、気になってしまった。
たとえば、再建しようという意欲が削がれない年間3000万円というほどよい赤字額や、中央官庁を退官後に天下りをして手にした2億円という資金、あまりにマルチな才能を持ち、ちょっと出来過ぎたMBAを持つ才媛、3人とも独身で移住にはまったく抵抗がない…など。
そりゃ、これだけの人材とお金が集まれば、それなりのことはできるだろうよ…なんて、野暮なことは考えない方がいいのかも。
あくまで、この物語は“現代のファンタジー”なのだから。