殺人者はいかに誕生したか/長谷川 博一

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殺人者はいかに誕生したか―「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く 殺人者はいかに誕生したか―「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く
長谷川 博一

新潮社 2010-11
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よく凶悪事件が起きると、マスコミはすぐに「心の闇」という言葉で片付けてしまう風潮は以前から気になっていたことだった。

単に、視聴者の興味をひくだけのキーワードでしかないような。

しかし、この本を読んでみて、やはり「心の闇」というものは存在を、少し意識するようになった。

著者は、数多くの凶悪事件の犯人と接見してきた、臨床心理士だ。

犯罪者の生育のストーリーを丹念に辿り、精神疾患との関連も検討し、犯行時に置かれていた環境を精査する…そのような作業を通してこそ、「なぜ、それは起きたのか?」への納得のゆく解答が見つかるかもしれない(はじめに)

本書では、日本中を震撼させた、10の凶悪事件の、「大阪教育大学附属池田小学校事件」、「連続幼女誘拐殺人事件」、「大阪自殺サイト連続殺人事件」、「光市母子殺害事件」、「同居女性殺人死体遺棄事件」、「秋田連続児童殺害事件」、「土浦無差別殺傷事件」、「秋葉原無差別殺傷事件」、「奈良小一女児殺害事件」、「母親による男児せっかん死事件」を取り上げ、犯罪者との対話を通じて、彼らの心の闇を探っていく。

多くの場合、共通して言えるのは、“暴力”と“死”であった。絶え間ない家庭内暴力、最愛の家族の死…

事件を考える上で、興味深い調査が載っていた。

それは、遺伝要因と環境要因が、犯罪発生にどのように影響するかを調査したもので、スウェーデン人のマイケル・ボーマンが自国で行った研究(1996)とのこと。生まれて間もなく里子に出された子どもたちが青年期に入るまでの間、行動の追跡が行われた。まとめると、次のようになる。

1.実の親に犯罪歴あり・育ての親に犯罪歴あり ・・・ 40%
2.実の親に犯罪歴あり・育ての親に犯罪歴なし ・・・ 12%
3.実の親に犯罪歴なし・育ての親に犯罪歴あり ・・・ 7%
4.実の親に犯罪歴なし・育ての親に犯罪歴なし ・・・ 3%

この結果から、犯罪は遺伝的な面もあり、さら環境が犯罪を助長すると発生率が高まることがわかる。逆に言えば、条件が揃わない場合には犯罪には走りにくい…ということになる。

もちろん、この調査がどの程度のサンプルをもって行われたのかもわからないから、信憑性もわからないが、示唆に富む結果ではある。

実際、犯罪者との対話から見えてくるのは、彼らの家庭環境、生育状況が、凶悪な犯罪を起こす遠因となっていると考えた方が自然であるということだ。

凶悪犯罪を未然に防ぐには、問題のある家庭環境を改善してくことが大事そうだ。

ただ、こういうことは、犯罪者との対話があったからこそ見えてきたわけで、もし、裁判が単純に量刑を考える場だけであったとしたら、「犯罪を防ぐ」ことが難しくなってしまう。

「凶悪犯罪には死刑を含めた厳罰を!」…という考えは変わってない。

しかし、将来、同様の事件を起こさないようにするためにできることは何か?を考えるために、センセーショナルに…ではなく、じっくり考えてみる、見直してみる、ということは、とても大事なことなのではないかと思った。

なお、著者は死刑制度に対し肯定も否定も意見を持たないようにしているという(p.39)。