永遠の0(ゼロ)/百田 尚樹

■文学・評論,龍的図書館

永遠の0 (ゼロ) 永遠の0 (ゼロ)

太田出版 2006-08-24
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約60年前。終戦直前に、特別攻撃隊(特攻隊)で亡くなったという、祖父のことを、姉弟が調べていく。

祖父を知る周囲の人たちの証言によって物語は進む。

最初にインタビューした相手からは、祖父が大変な臆病者だったというところから話が始まる。しかし、いろいろな人に話を聞いていくうちに、徐々に宮部の素性が明らかになっていく。

戦争を題材とした、いわゆる“戦争物”は、実はいままで読んだことがなかったし、この作品の主題となっている、特別攻撃隊(特攻隊)についても、史実は知っていても、詳しいことはよく分かっていなかった。

かつての特攻隊は、現代のテロリストに等しい存在であり、天皇陛下のために死ぬことを苦しみと思わず、むしろ喜びとさえ感じていたとか、軍部に洗脳され、徴兵ではなく志願して、特攻隊員になった人たちは、自爆テロリストと共通項があるという話題が出てくるが、それらの話は、あまり抵抗なく納得させられたのは事実だ。

しかし、それらがとんでもない誤りであることは、読み進めていくことで明らかになった。

証言は詳細で、まさに太平洋戦争戦史そのものだ。この戦争の実態を非常に細かく知ることができた。

靖國神社遊就館にある零式艦上戦闘機
靖國神社遊就館にある零式艦上戦闘機

特攻隊員といえども、決して特殊な人たちではなく、優秀ではあったが誰もがごく普通の人間であったということ、洗脳されていたわけではないし、ましてや天皇のために死のうと思った人なんていないということ…読んでいるうちに、戦争の悲惨さをイヤと言うほど見せつけられた気がした。

専門用語もあるため、読み進めるのが少々難しいところもあったが、全体的には、かなりわかりやすく書かれているので、読むのにはそれほど時間はかからなかった。

ただ…。
最後のどんでん返しにはビックリしたし、全体を通じて読み応えはあったが、あまりの祖父の“超人ぶり”に、ある程度展開が読めてしまったのが残念だった。

また、話を聞き進めていくうちに、姉弟の気持ちに変化が現れるのだけれど、どこかそれがとってつけた感じがしたし、なにより、あれだけ、命を大切にしてきた宮部が、最後の最後に、特攻で命を落とすのはなぜか?ということについては、残念ながらしっくりいく回答が得られなかった。

僕の読み方が甘いだけなのかもしれないけど、同じ作者の書いた「風の谷のマリア」が最高におもしろかっただけに、ちょっと残念な読後感だった。

でも、その一方で、もっと当時のことを知りたいと思ったし、知らなければならないと思った。