軍艦島―眠りのなかの覚醒/雑賀 雄二

■建築・都市, 龍的図書館

軍艦島―眠りのなかの覚醒 軍艦島―眠りのなかの覚醒
雑賀 雄二

淡交社 2003-03
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閉山して無人島となった10年後の1984年から撮り始めたという写真集。前半2/3は無人島となってからの軍艦島を撮った写真集で、残り1/3は閉山間近の軍艦島の様子を日記と当時の写真という構成。

「閉山後は全島立ち入り禁止になったのではないか?」なんて思っていたら、追記の最後に小さくその旨が書かれていた。では「著者はどうして写真を撮ることができるのかな?」という疑問も浮かんだが、完全に人から棄てられたモノたちのモノクロ写真を見ていると、そんな疑問は些細なことのような気がしてきた。

人の手が加わらないと、ここまで朽ちてしまうのかと驚く一方、逆に当時の人々の生活が手に取るように分かる。洗ったあと逆さに置かれたお茶碗の写真などは、島を去る直前までごくふつうの生活があったことを物語っている。

たとえがよくないかもしれないが、まるで恐竜が地球上から忽然と姿を消したように、軍艦島の支配者たる人間が突然と消え去ったような感じ。

とてももの悲しい感じがしたのだけど、あとがきに書かれていた著者の言葉を読むと、それは決してそうではないことがわかる。

たとえば椅子や瓶というものは、あたりまえだけど人間にとっては作られた用途、目的があって、人間がそこにいるうちは、そういった用途、目的で使われるものだ。しかし、人がいなくなれば、名前を失い、機能も失って、ただの物質となる。

棄てられたがゆえに、ものは人の支配を逃れ、背負わされてきた主従という関係の呪縛から解き放たれ、自由を獲得した。ものは人間の手垢と共に既成のイメージをも脱ぎ捨てて、ようやく無垢なものになったのだ

無人島となって、島は死んだというかもしれないが、ものにとっては無人となったのを契機に目覚めたのだ。この風景を寂しいと思うのは、ものの存在を意味や価値や機能でしか見ない人…なのかもしれない。