トヨタ・レクサス惨敗/山本 哲士

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4828412794 トヨタ・レクサス惨敗―ホスピタリティとサービスを混同した重大な過ち
山本 哲士

ビジネス社 2006-06
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トヨタの高級車ブランドである「レクサス」が、日本市場で苦戦を強いられていると、ニュースか何かで見聞きしたことがある。そもそもあまり自動車には関心が低いこともあって、その実情や背景はよくわからないままだった。

先日図書館で見かけた、この本のタイトルに惹かれて読んでみることにした。

そもそも“レクサス”という言葉は、「レクサスES300、日本名ウィンダム」というCMで、初めて聞いたことははっきりと覚えている。どうやら、これまで日本では別の名前で売っていた商品を、レクサスブランドとしたもののようだ。

LS … セルシオ
ES … ウィンダム
GS … アリスト
IS … アルテッツア
LX … ランドクルーザー
SC … ソアラ

なるほど、これまで普通に売られてきた車が、ブランドが変わった瞬間から高級車として高く(場合によっては100万円以上も)なったのだから、車そのものもそうだが、売り方自体も相当な工夫が必要だということは容易に想像できる。

おそらく、それに失敗したんだろうということも薄々感じてくる。

日本レクサスには、すでにクルマ自体が出来合いのモノであることの上に、個性とかプレミアム感というきわめて曖昧なコンセプトを与えてしまった。(p.31)

実際、レクサスが掲げたプレミアム感を具現化したレクサスならではというサービスの多くは、本来は既存のトヨタでやるべきサービスだったと指摘する声もある。アメリカで大成功したのは、アメリカにあった“ホスタビリティ”が提供できたからだと筆者は指摘する。

そして日本では…

レクサスの店にはいって掛けられた言葉がなんと「お帰りなさいませ」だった。

「本当!?」と思ってしまうが、本書にはそう書かれている。ホスピタリティを取り違えているという実例として挙げている。まぁ、メイド喫茶じゃあるまいし、たしかにこれはやり過ぎだろう。ホテルや航空会社の客室乗務員たちから学んだという方法自体を批判している。

本書ではホスピタリティとは何かということについて詳しく説明している。

サービス ホスピタリティ
相手が何を求めているかを前もって想定している 想定した知っている部分でしかコミュニケートしない(知らない場合すらある)
これ見よがしに行うことを強調 徹底してされげなく行う
ないと不満 なくとも、もともと不満はおこらない
多数を相手にするので効率が決め手 相手ひとりを丸ごと引き受けるため効率とは無縁
量価計算が可能 不等価計算、計算不能
シンプルで煩雑ではない 複雑かつ煩雑
画一的 多元的

このあたりは大変興味深く読んだ。まったくと言っていいほど縁のない“プレミアム”か“高級”とは何か?ということを考えさせられた。

販売不振となった原因のひとつとして考えることもできよう。ホスピタリティという視点は悪くないと思う。ただ、本文中にグラフや図表は一切なく、定量的(つまり数字)はほとんど示されていないことから、著者が感じたままの表現にとどまっているため、説得力は薄い。

そして、ある自動車会社の副社長に対して、著者がプレゼンをしたという話では…

私の説明に対して、件の副社長は…(中略)…顔を主に染め、怒るような反応を示した。私は吹き出しそうになるのをこらえて…(中略)…説き続けたけれど、彼は聞く耳を持っていなかったようだ。(p.131)

といった“偉そうな”態度が、文章中から垣間見えるのも鼻に付く。さらに、

ネットワーク社会は、「ポスト・インダストリアリズム」「ポスト・フォーディズム」「ポスト・モダニズム」「情報社会」「グローバル化」からなる現在進行中の社会の姿といえる。(p.141)

これは時間/空間を越えたグローバルなフローにおいてバーチャルな文化を構築していく。(p.141)

という、一度読んだだけでは理解しがたい表現も気になる。そして、

ホスピタリティとは美の経済そのもの。美のエコノミーを創造していくことなのだから。(p.197)

と煙に巻いたような結論を見ると、なんだか“置いてけぼり”を食らった感でいっぱいになった。

もっとも、高級車もなにも、いまトヨタはもちろん、自動車市場全体が非常に苦しい状態になっている状況は、ホスタビリティどころの問題ではないのかもしれない。でも、そうした視点を持つことは、今後の自動車市場(それ以外でも)を考える上でとても大事なものであるということは、よく分かった。