ホームレスどっこいお気楽名言集/矢野 弥八
ホームレスどっこいお気楽名言集 (ベスト新書) 矢野 弥八 ベストセラーズ 2008-10-09 |
都内の大きな駅やその周辺を歩けば、何人ものホームレスを見かける。
ふだん視界に入っているはずなのに、無意識のうちに視界からはずしてしまっている自分がいる。ごく当たり前の光景であるということもあるが、実態がわからないために、どこか別の世界の人のように感じているからかもしれない。
本書では、著者がホームレスに直接インタビューし、見開き1人合計99人を紹介している。当然のことながら、ホームレスにもさまざまな人がいることがわかる。
東芝の営業主任、医療関係の印刷会社社長、外装内装設備の職人兼営業、沖電気、トーハンのトラック運転手、西武鉄道、自衛隊、帝国データバンク、警備員、電気工事技師、三井鉱山の幹部候補生、料理人、中央大法学部を卒業し小中高で教師をしてた人、世界中の海を回るマグロ漁の漁師…と職業はさまざま。
実は持ち家がある人、退職金2700万円を年金支給開始前に使い切っちゃった人、親と喧嘩して家を飛び出したままの人、東京に旅行の途中でそのまま居着いちゃった人、奥さんを白血病で亡くした人、母親を10年近く介護してきた人…と経緯もさまざまだ。
これだけさまざまな職業や経緯を経てホームレスになったということは、ホームレスは決して特別な存在ではないということだ。急激に襲ってきた100年に一度といわれる不況の中で、この年末年始、東京の日比谷公園で、いわゆる“派遣切り”で済むところを失った人たちに、一時的に食事と寝る場所を提供したというニュースは、“ホームレス”という存在が、いよいよ身近になってきたのではないか?と感じさせるには十分だった。
暗澹たる気持ちになる一方で、文字通り“どん底”にありながらも、なんとか生きていくことはできるかもしれない…という気もしつつ、何のために生きなければならないのだろう?…と答えの出ないようなことも考えたりして、少し考えが混乱してしまった。
インタビューに答えるホームレス言葉の一言一言が重い。たとえば…
- 凍死には気をつけている…
- 雪が降ったら、徹夜。大雨が降っても、徹夜…
- その日、暑かったんですよ。ビールにしようかジュースにしようか迷って、ビールを買ってしまった…
- 人生何でもあり、というのが身をもってわかった現在の心境…
- 我々が築いてきた技術とか経験が全部、パソコンの中に入っちゃった…
他にも、ちょっと笑っちゃいそうなのもあったが、いろんなことを考えさせられる。
本書のタイトルは軽すぎて微妙な感じ。でも堅苦しくならないためにあえと、こうしたのかもしれない。ホームレスの実態(あくまで一面)を知るにはよい本だと思う。