オオカミ少女はいなかった/鈴木 光太郎

■文学・評論,龍的図書館

478851124X オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険
鈴木 光太郎

新曜社 2008-10-03
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1920年10月。インド東部のある町でオオカミと一緒にいた2人の子どもが発見された。どうやらオオカミに育てられたらしい…。“オオカミに育てられた少女”という話は、詳しくは知らなくても、誰もが一度は聞いたことがあるだろう。そして、多少不審がりながらも、多くの人は「そういうこともあるかもしれない」と信じていたと思う。僕もそのひとりだったが、これがまったくのウソだったという話から、この本は始まる。

きちんと論理立てて考えていけば、ウソだとわかることなのに、この話が報じられてから80年以上も信じられてきた原因や、そもそも捏造したり脚色した背景などを、わかりやすく論理立てて追究していく。そのさまは、まるで推理小説の謎解きのような感じで、どんどんと読み進めていくことができる。

同様に、本当に起こりうることなのか実はわかっていない「サブリミナル効果」、実は周囲の人間が無意識のうちに答えを伝えてしまったことで、まるで人間のように数字や言葉を理解したように見えた「天才馬」、ある記憶を持ったブラナリアを食べたブラナリアがその記憶が再現したという「ブラナリアの学習実験」など、かなり興味深いエピソードが次々と登場する。

こうしたエピソード=神話は、いかにして作られ、どのように伝えられていったか、本書の副題の通り、心理学の“神話”をめぐる冒険の旅に引き込まれる。

心理学の世界は、その特性上、どうしても神話や胡散臭さと隣り合わせにあるように思われてしまう。そうしたことから払拭するためには、論理的にものを考えよと筆者は説く。原典にあたり、噂に頼らず、疑うこと。こうすれば、心理学のなかの似非科学の部分ははるかに少なくできるに違いない…と。

これは心理学にとどまらず、あらゆる情報やニュースにも言えることではないだうか? ウソを見抜くことができず、鵜呑みにしてしまっていることがないか、ちょっと立ち止まって考える必要があるのかもしれない。