2527 ヴィルヘルム・ハンマースホイ展

芸術・デザイン

国立西洋美術館
国立西洋美術館

譲ってもらった鑑賞券で「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」という展覧会に行ってきた。

ヴィルヘルム・ハンマースホイは、19世紀末のデンマークの画家だ。近年、世界的に再評価が高まっているとのこと。今回は日本で初めての回顧展となったそうだ。もちろん、僕も鑑賞券を譲ってもらわなければ、行こうとも思わなかったかもしれない。

コペンハーゲンは2年前に行ったことがあるということもあって、街の様子を思い出しながら鑑賞した。

フェルメールを思わせる写実的な室内表現に特徴があるという彼の作品は、背を向けた人物が多く描かれたり、風景や建物を描いた作品では徹底的に人物を登場させないなど、独特の世界が描かれている。

旧アジア商会
旧アジア商会(1902)

そして、どの絵にも共通しているのは、表現されているのは“静けさ”のみだということだ。絵全体が静寂さに包まれている。人物が登場する絵も、絵を見る者からの会話を拒絶するような雰囲気。

「3人の若い女性」という作品は、3人が同じ絵に収まる・・・つまり空間を共有しているのに全員がよそよそしく、心理的な接点を持たないように見える。もしこの場に居合わせたとしても、声を掛けづらそうだ。

3人の若い女性
3人の若い女性(1895

でも、絵全体で醸し出す不思議さは、見る者を惹き付ける。絵は見る者を突き放しているのに、なぜかその絵のことが気になってしまうのだ。

ひたすら、女性(妻)の後ろ姿ばかり描いているし、モチーフになった自宅のドアもしつこいくらいに描き続けている。相当なこだわりがあったのだろう。同じような絵でも、同じ構図でもモチーフやドアの取っ手が意識的に省略されてたり、椅子やピアノの脚がどう見ても足りなかったり、影の伸びる方向が一定でなかったり…と、“単純な絵”で終わらせないのは、ハンマースホイの計算によるものだろう。

室内、ストランゲーゼ30番地
室内、ストランゲーゼ30番地(1901)

ただ、絵のタイトルには、あまりこだわりがなかったようで、「室内」とか「室内、ストランゲーゼ30番地」といった、あまり考えてないようなものも多い。タイトルが同じなので絵を特定しにくい。そもそも、ここでいう“室内”というのは、なんてことはない彼の自宅だ。

室内、ストランゲーゼ30番地
背を向けた若い女性のいる室内(1904)

ふだん僕が絵を見るときには、絵の中の光景を想像して、そこから何か読み取れないかを考える。しかし、先述のように、彼が不必要と判断したモチーフは徹底的に省略されているため、読み取るための手掛かりがないのだ。おそらく、そうしたことも彼の狙いだったのではないかという気もしてくる。

先述のように、あらためて評価が高まっているというのもわかる気がする。今回の展覧会で初めて知った画家ではあったが、予想以上にとても満足できる内容だった。

Posted by ろん