Suicaが世界を変える/椎橋 章夫
Suicaが世界を変える JR東日本が起こす生活革命
東京新聞出版局 2008-05-16 |
もうすっかりおなじみになったICカード乗車券「Suica」。この生い立ちや経緯、その背景、プロジェクトに関わる人たちの姿を、プロジェクトリーダーであった著者が詳細に記している。
当初、プロジェクトメンバーはわずかに2人。
「これはうまくすると大化けするけれど、下手するとクビになる」と、手応えを感じつつも、多少の不安を感じながら、プロジェクトを進めていたようだ。
民営化直後の1987年からすでに、ICカードを活用することに関する検討が始まっていたらしい。しかし当時は発展途上で実績もないICカードではなく、磁気カードによるシステムが全面的に採用されてることとなった。このためにICカードによる自動改札システムが出現するまでに時間を要することになる。
著者をはじめ研究陣たちは、磁気カードシステムが老朽化し置き換えが始まる10年後を目標に研究を進めていくことになった。
初期の一般用Suica |
デビュー記念Suica |
確かに、開発当初のICカードの信頼性は低く、1994年に行われたモニター試験では、本来自動改札機を通過させてよいカードについてもエラーによって閉じてしまう問題が多発。その差は磁気カードシステムの実に20倍以上のエラーが発生したという。
当初はカード自体にバッテリーを搭載していたために長期の使用に耐えない仕様であったり、鞄から出さずに自動改札機を通れるようにしようとしたために、カードが思うように反応せず大変な苦労をしたり…と、今日のSuicaが誕生するまでの、知られざる苦労を知ることができる。
これほど大規模なシステムでありながら、大きなトラブルはほとんど発生していない。唯一のトラブルと言えば、僕も経験した2007年10月に発生したトラブルで、このときは、自動改札機を全面解放するという“劇薬”で対応したことについても触れられている。
Suicaの進化はこれで終わったわけではないという。先述のようにもともとは鞄から出さずに通れるようにしようとしたが技術的に諦めた経緯がいまのSuicaであり、技術者としては本来の目標であるより便利な状態にを目指していたいというのだ。たとえば、人間の身体をアンテナとして使うというアイディアで、身体のどこかでカードに触れていれば、改札が通れるようにするというものらしい。技術的には問題なく可能性はあるという。Suicaもはじめはその程度のレベルであったというから、意外と実現するかもしれない。
このプロジェクトを支えていたのは、著者の「やらなければならない」という使命感であったような気がする。僕のふだんの会社での生活において「やらなければならない」という使命感や気概ってどうだろう?…と、自分自身にちょっと問いかけてみたが、あまりいい反応はなかった。うーん。