2498 ロン・ミュエック展

芸術・デザイン

巨大化した人間の身体を“超”リアルに再現した芸術作品が、日本で展示されているということは、ずいぶん以前に、おじゃこから教えてもらっていた。

先日東京都現代美術館に行ったとき、それが今月31日までということを知り、なぜか無性に実物を見てみたくなった。

ただ、ちょっと遠い。

金沢だ。

上越新幹線と在来線特急を乗り継ぎ、東京から約5時間かけて石川県金沢市へ。

朝からどんよりした曇り空で、列車の車窓を眺めていると途中から雨も降り始めたようだ。あいにくの天気…と思っていたら、美術館に着くころには、天気は持ち直してきたようだった。金沢は約11年ぶり。おじゃこは初めての金沢だ。

14時40分、ようやく金沢21世紀美術館に到着。

8月の週末ということや、会期も終わりに近づいているということもあってか、チケットを買い求める人たちの行列ができていた。

まず最初に現れたのは、巨大な男性の寝顔(寝てるのかどうかはわからないけど、目はつぶっている)。それは想像をはるかに超える大きさに圧倒される。

その後現れたのは、逆に身長が数十センチくらいの小さな作品。数メートルほどある小舟に乗る男性は、服を着ていない。でもまったくそれが変に思わないから不思議だ。男性は遠くに何かを見つけたようで、じっと見ているようだった。その視線の先が気になって、目を合わせてみようとしたが、どうやっても視線が合わなかった。

その後も、つぎつぎとリアルな人間が現れる。

微妙な毛細血管やら、皮膚の表面の毛穴や鳥肌まで。まさに生きたままの人間の姿がそこにあった。

作品が作られるまでの工程が映像で紹介されていた。

僕は、あらかじめなんらかの素材を削って作られているのだと思いこんでいたが、そうではなかった。あらかじめ粘土で精密に塑像を作ったあと型を作る。そこにグラスファイバーを流し込み、作品の“本体”ができたら、中から粘土を取りだしてしまう。せっかく精密に作られた粘土がもったいないような気もするけど。粘土が取り除かれたグラスファイバーに着色する。驚きだったのは、人間にそっくりなこの色は、表面から付けられたのではなく、内部から着色されるということだった。

膨大な手間と時間を掛けられて作られた作品が、見る人の心を打たないはずはなかった。

この映像のなかで、あえて作品は目をつぶらせているという言及があった。そうすることで見る人に威圧感を与えず、じっくり作品を鑑賞できるようにするための配慮らしい。なるほど、それでさっき合わせることができなかったのは、そういった理由も関係しているのかもしれない。

いくつもの作品を前にしているうちに、なんだか不思議な気分になった。うまく表現できないが“違和感”に似たようなものを覚えたのだ。

ふだん人間なんて見慣れているはずなのに、実際には、こんなにまじまじと人間を見るなんてことはなかった。しかもリアルに超巨大であったり、リアルに極小だったりしている。日常と非日常が共存するという違和感。でも、それは決して不快なものではなかった。

なかなか、うまく表現できないので、もう少し、ここで感じたものを咀嚼してみようと思う。

今回美術展を見るために、数百キロも離れたところに行くなんて、ずいぶん思い切った初めての経験であったが、行っただけのことはあった。また、この強行軍に理解を示してくれたおじゃこにも感謝したい。

【展示作品参考】

金沢21世紀美術館(キャッシュ)
All About
朝日新聞(キャッシュ)

今回訪れた金沢21世紀美術館は、2004年にオープンして以来、つねに注目を集めている美術館らしく、美術に詳しくない僕でも、この美術館の名前をたびたび聞いたことがあるくらいだ。建物自体もかなり特徴的。上空から見ると完全な円形で、入口が複数あるので、一瞬どこにいるのか迷う。

「レアンドロのプール」は、この美術館の代表的な常設展示のひとつ。プールの上下からそれぞれの景色を眺められるようになっている。たいてい、写真に写り込んでしまう観光客は“邪魔”な存在になりがちだが、ここではむしろ人がいてくれないと、ただのプールにしか見えない。それくらいよくできている。

Posted by ろん