首都壊滅―東京が核攻撃された日/本郷 美則

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4898311156 首都壊滅!―東京が核攻撃された日
本郷 美則

ワック 2007-10
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先月洞爺湖サミットが開かれたばかりだが、大方の予想通り大きな成果はあがらず、結果的に各国の利害があらためて表面化しただけのような結果に終わった。

北朝鮮よって“東京が核攻撃された日”(副題)までの課程と、その後の世界を描く。もちろんフィクションだが、どこまでが本当で、どこからがフィクションなのかわからない。それくらいリアリティある。

洞爺湖サミットのことはもちろん、拉致問題や核開発問題に関する六者協議の不調、アメリカ大統領選挙など、いま、まさに起きていることが“その日”に向かう伏線として描かれているのだ。

さらに驚きなのは、韓国での最近の混乱が、予測されて書かれていたということだった。実際に、牛肉輸入問題に端を発した暴動は、韓国大統領の謝罪、さらにはなぜか反日暴動にまで発展し、竹島の帰属問題などとともにややこしい状態になっている。これがどんどん発展していったら…と思うと、恐ろしくなってくる。

ネタバレになってしまうので詳細は割愛するが、読みながらいろいろ考えさせられた。

唯一の被爆国である日本が核兵器を持たないという「非核三原則」は理解できる。そうするべきだという思いもある。長崎の原爆資料館で見たあの光景、そしてその衝撃はいまでも鮮明に覚えている。

しかし、理不尽にもこうして他国から核攻撃を受けるような事態が絶対にあり得ないと言い切れないとしたら、いったいどう対処したらよいのだろうか?

もし…日本が核兵器を保有することが核攻撃を受けない方法だとしたら?…と悪魔のささやきにも思えるような発想も思い浮かぶ。

簡単には結論の出ないが、決して避けては通れない大事な問題だと思う。これまで曖昧なまま、結論が先延ばしされ続けてきたが、そろそろきちんと考える時期に来ているのではないだろうか?

ただ、この本を読んでいて気になるところがあった。

フィクションなのだから、気にしなくていいことなのかもしれないが、現実との相違が目に付いたのだ。

たとえば、地下鉄永田町駅が地下深いところにあったために助かった人たちが描かれているが、その深さが、100mとなっていた。実際には地下40m足らずしかない。なぜこのような調べれば簡単にわかるような間違い(これはフィクション?)がそのままになっているのか疑問だった。

また被災地東京の復興を描いた箇所では…

地下鉄と在来線の相互乗り入れが、こういう事態になると、双方そろっての復旧を待たねばならず、互いの脚を引っ張り合って回復を手間取らせた。

とあったが、この記述にも疑問を感じた。確かに相互乗り入れにおけるダイヤの乱れは、多少の混乱を招くことはあるが、首都圏に核爆弾が落とされたという緊急事態においては、必ずしもそれがネックになるとは思えない。単純に乗り入れを止めて、各鉄道で折り返し運転をすればいいだけのことであって、相互乗り入れの存在が混乱に拍車をかけることはないと思う。

もともと鉄道に関心があるために事実と異なるような記述を見つけられたのかもしれないが、それ以外の点でも、もしかすると事実と異なったり、誇張して描かれていることがあるかもしれない。全体的にリアリティのある話だからこそ、そう思わずにはいられなかった。