筆跡事件ファイル/根本 寛
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筆跡事件ファイル―筆跡鑑定人が事件の謎をとく 根本 寛 廣済堂出版 2007-12 |
筆跡鑑定といえば、テレビや小説などではときどき見かける。筆跡鑑定の結果は、重要な証拠であるものの、他の証拠と比べると、説得力が弱い気がしなくもなかった。
たいていの証拠は、よほど明確な物証ではない限り、一般人には証拠かどうかの判断すら難しい。血液型とか指紋とかDNA判定など、特別な薬品とか検査をしなければ判断はつかない。その点、筆跡鑑定は、その場にある筆跡が証拠の全てであり、他の証拠に比べて、鑑定は簡単じゃないかと勝手に思っていたが、どうもそうではないらしい。
鑑定対象の文字と、当人が書いた同一の文字を見つけ出して比較するのは当然だが、それ以外の文字からも特徴(筆跡個性)を見つけ出したり、同一人物の同一文字であっても多少の変化(個人内変動)は現れてしまうため、それをどう判断するかといったあたりがノウハウのようだ。本人に見せかけて意識的に変造した文字(作為文字)や、自分の筆跡を隠そうとした文字(韜晦文字…とうかいもじ)との違いを明確にしなければならない。さらに、そのときの肉体的、精神的な状況なども加えて、総合的な判断をすることになる。そして文字の違いの判断そのものより、どう説明し理解してもらうかが最も難しいという。
本書では、実際に筆跡鑑定した事例をもとに事件の謎を解き明かしていく。筆跡鑑定をする際の具体的なポイントなど、ふだんの生活のなかでは、まずお世話になることのない筆跡鑑定の面白さを教えてくれる。
最後の章では、筆跡鑑定の実務的な話ということで、筆跡鑑定を依頼する時の注意事項などが述べられている。
鑑定人の能力や調査の仕方によっても、結論は大きく変わってくるらしい。本書では、同業他者の誤った鑑定でトラブルになるケースが数多く登場する。著者はそのことにかなり憂いており、ひととおり本書を読むと、著者の事務所に依頼するのが無難という結果になってしまうようで、そのあたりはちょっと引っかかってしまう。
実務的な内容はかなり具体的で、依頼の仕方や費用についても書かれている。
事前調査(調査の方向性を口頭で伝えてもらう) | 3万円 |
所見書(事前調査を文書にしたもの) | 4万円 |
簡易鑑定書 | 10万円~15万円 |
本鑑定(裁判用) | 20万円~60万円 |
反論書兼鑑定書(誤った鑑定書に反論し、更に鑑定) | 40~80万円 |
予想どおり高い…。
本来であれば、本格的な調査があって結論を出すのが筆跡鑑定であって、調査前にある程度の結果を予測する事前調査はやりたくないのだそうだ。それでは、依頼人に費用の負担が大きいため、依頼人が望む結果になるかどうかを事前に判断してもらうために、あえて事前調査というものをやっているのだという。そういう意味では、良心的かもしれない。