犬身/松浦 理英子

■文学・評論,龍的図書館

4022503351 犬身
松浦 理英子

朝日新聞社 2007-10-05
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自分は「性同一性障害」ならぬ「種同一性障害」であると信じて疑わない主人公房恵。犬好きが高じて、謎のバーテンダーに自分の“魂”と引き替えに犬“フサ”に変身してしまう。


思ったより厚くてびっくり

元人間が犬になって、人間の世界を覗く話なんて、これまでありそうでなかった。飼い犬になってしまったら、ワン!とほえたり、唸ることはできたとしても、自分の言葉でしゃべることはできないし、自分の意志で自由に動くこともできない世界だ。それは、ごく普通の人間から見たら、とても息苦しいような気がするが、犬になりたかった房恵にとっては、まったく苦ではなかったようだ。

それよりも、最後まで心を痛めていたのは、飼い主の梓が置かれた不幸な現実であった。念願叶って思いを寄せた梓の飼い犬になったはいいが、そこには筆舌に尽くしがたい大変な問題が起きていたのだ。犬だからこそ通じ合えるものがあるという主人公は、犬なりに、飼い主を慰め、励まし、応援する。

4つの章と結尾で構成されていて、いずれも犬にちなんだ名前が付けられている。当然、そんな言葉はないけれど、なんとなく意味は伝わってくるようだ。

第一章 犬憧(けんしょう)
第二章 犬暁(けんぎょう)
第三章 犬愁(けんしゅう)
第四章 犬暮(けんぼ)
結尾(けつび)

ところどころでブログが話の鍵を握るあたりは、まさに現代風。

ハードカバーで、実に500ページにもおよぶが、個性的で特徴ある登場人物、読みやすい文体、話の展開がとても早いということもあって、会社の行き帰りの1週間くらいで、読むことができた。心を通じ合うというのは、どういうことなのか?ということを考えさせられる。読んでいてつらくなるところもあるが、結末はちょっとホッとする。