2270 わずか5分間の出来事
夜の新橋。
その建物は、賑やかな通りから、ほんのちょっと奥まったところにあることは以前から知っていた。京浜東北線や山手線の電車からも見える。時間の流れが止まったかのようなその建物は、やはりどこか近寄りがたい。その近寄りがたさはどこから来るのだろうか?
名前を示す字体のせい?
まるで廃墟と化した建物のせい?
やはり建物の用途のせい?
ふだんならば見過ごしてしまうその建物を、なぜか今日は気になって近づいてみた。周囲を歩く人たちは、建物の存在自体無意識に視野に入れないようにしているかのように見える。
建物をよく見てみようとするが、全体から近づいてはいけないというオーラを感じてしまう。まるで見てはいけないものを見ているかのようだ。
ぴったりと閉じられた窓の中で、窓が1つだけ開いていた。台風が近づく生ぬるい風にカーテンが揺れる。街の灯りに照らされた部屋の奥に見えたものは…
写真には写らなかった |
巨大な円形の手術用照明灯だった。
僕の心臓が強く波打つのがわかった。
何人もの手術を見守ってきたであろう照明灯がじっとこちらを向いていたのだ。この照明灯の下にいた人たち…どんな思いで、今から受ける手術を待っていたのだろう。
・・・
賑やかな通りに戻ると、たった今見たことが、まるで夢だったような錯覚を覚えた。