2078 最先端認証システム
今日から会社が始まった。
会社に来てからまずすることは、パソコンの電源を入れてネットワークにログインすること。かつてはパスワードだけだったが、いまは指紋認証に変わっている。時代も変わったものだ。
ただこの指紋認証の精度があまり良くないのか、僕の指に問題があるのか、以前からなかなか認証してくれず、イライラする。今年最初の認証は右手人差し指ではどうしてもダメだったが、左手人差し指では1回で成功。幸先良いスタートとなった(…気がするだけ)
もっとも、指紋認証は、指紋自体を樹脂などの型にとったいわゆる“グミ指”と呼ばれるものを作ってしまえば、本人以外でも認証が通ってしまうことが知られている。しょせん、簡易な認証手段でしかない。
最近銀行では、指先や手のひらの静脈を使った認証をするようになってきた。さすがに身体の内部にある静脈を偽造することは難しいだろう。
指紋や静脈は、人によって異なるものの生涯変わらないという点で認証に使われている。“人によって異なる”という点で、僕が以前から気になっているのが「くしゃみ」だ。
くしゃみは、人によってあきらかに違うことは、以前も書いたことがあるが、これを本人を特定する認証に使ってみたらどうだろう。くしゃみという一瞬の生理反応であれば、他人を真似ることは相当難しいのではないかと思う。指紋のように本人のいないところで知らないうちに偽造されないし、いつくしゃみするかわからないから録音されることも難しい。仮に録音されても他人になりすませて再生させないようにすればいい。
ここでちょっとかなりくだらない妄想してみる。
・・・
20XX年X月。
非常に機密性の高い情報を扱うある施設に、世界最先端のセキュリティ認証がスタートした。関係者の注目が集まった。
高セキュリティエリアへ通じる扉の前には、金属探知器とともに、マイクが設置されている。さらにその隣には、胡椒、刷毛、糸…といった、セキュリティや世界最先端といった言葉とは似つかわしくない品々が並ぶ。
長年の研究を経て、ついに世界で初めて実用化された「くしゃみ認証」だ。
ハクション!
ヘックション!
クシュン!
・・・
ひとりの人間が扉を通過するたびに、くしゃみが響き渡る。
最初のうちは行列ができてしまうこともあったが、しばらくすると比較的スムーズになった。一番の要因は、なんてことはない、たまたまその時期が花粉症シーズンと重なったからだ…という報告も挙がっている。