動物園にできること/川端 裕人

■いきもの,龍的図書館

4167662035 動物園にできること
川端 裕人

文藝春秋 2006-03-10
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動物園はいったい何のためにあるのだろうか?
その答えを見つけるため、著者は渡米した先で長期間にわたりアメリカ中の動物園を取材していく。まだ日本で北海道の旭山動物園のような意欲的な動物園が注目されるはるか昔のことだ。

アメリカの動物園におけるさまざまな取り組みの歴史は、動物園の目的はいったい何であるかということが、模索され議論されてきた歴史そのものだ。

もちろん日本でも少なからず似たような取り組みがあったのかもしれないが、アメリカとは比べものにならない状況であったということは、容易に想像がつく。

ただ問題はそれを容認してきた僕たちのような一般の来園客にもあるということも感じる。
隠しマイクで録音して、その内容を分析するという調査が行われたというエピソードは大変興味深い。

猿人類以外の霊長類の展示の前で、一番多く聞かれる言葉は「モンキー!」だ。それがテナガザルだろうが、マーモセットだろうが、タマリンだろうが、ヒヒだろうが、クモザルだろうが、一言、モンキー!ですませてしまう。大きな字で、その種の名前と原産地、習性などが近くに書かれていても、それは問題にされない。ゴリラとチンパンジー以外の霊長類は、モンキーであり、そこから先を学ぶことはしないのだ。

自分の記憶のなかにある動物についての「モデル」に現実を当てはめようとしているのだろうという。新しいことを学ぶより、すでに知っていることを確認することのほうがたやすい。多少無理してでも当てはめて、納得したらそれで興味を失うことが書く点字の前で怒る。これでは何かを学んでいるとはいえない。(p.243)

たしかにその通りで、単純に自分の持ち合わせいる知識を確かめているだけ…ということは自分の行動を振り返っても起きうることだ。もちろん説明書きなどをできるだけきちんと読むように努めてはいるものの、肝心の説明がわかりにくかったり、文字が小さすぎて読みにくかったりすることも往々にしてあるが、それが大きな問題になるということはあまり考えにくい。来園者が、動物園にそうした説明をそれほど求めていない…といったら言い過ぎかもしれないが、受け入れる動物園側もあまり意識していないのではないかと思える時もある。

「動物園はいつもそうだ。問題を提起することはしても、その解決方法を示さないんだ」(p.282)

という言葉にも共感するところがある。もちろんこうした傾向は動物園ばかりでないし、本書にも書かれていたような気がするが、教育的に押しつけるような主張をすることが必ずしも有効ではないとは思う。賛否両論があって答えがまとまってないということもあるかもしれない。けれど「じゃあどうしたらいい?」という部分を、そのまま来園者に丸投げしてしまうというのは、果たして適切なことだろうか?

いろいろな解決方法や解決の糸口があるということを提示して、それをどう考えるか?というところまでいって、初めて意味のある投げかけになるんじゃないかと思う。賛否両論があるのであれば、それらをすべて挙げるということが必要なのではないだろうか。

すべての動物園関係者に読んでもらいたいし、そこを訪れる立場となるごく一般の人々にも読んでもらいたい。動物園に対する見方が変わることは間違いない。